バスは、5分程で病院に着いた。
徳川は、運転手に抱えられ病院に入った。

「お客さん、出発便は何時なんですか?」
運転手が、時間を気にして言った。
徳川は、もうろうとした目をしていたが、出発便の時間を聞かれ、慌てて腕時計を見た。
「あ・・・、あの、1242分なんです・・・。ああ、あと一時間半しかない・・・。急がなければ・・・・。」
そう言い、運転手の方を見て、続けた。
「あの・・・、僕は大丈夫ですから・・・。どうしても、その飛行機に乗りたいんです・・・。」
すると運転手は、
「いや、この熱は相当高いぞ。無理して飛行機に乗ったら、フライト中に大変な事になるぞ。便を遅らせた方が良いな。」
と、少々きつい口調で言った。
運転手のその言葉に、徳川は少し怖くなった。
「大変な事になる・・・、か・・・・。」
そう、心の中でつぶやき、
「はい、分かりました・・・。」
と、運転手に向かって言った。
運転手は、徳川のその言葉に安心したのか、
「それでは、私は仕事に戻りますから、本当に、くれぐれもお気をつけて・・・。」
そう言い、バスに戻った。
 

 

徳川は、待合室で診察の順番を待った。
だが、本当は、出来る事ならば、何とかして、予定の便に乗りたいと思っていた。
時間が、刻一刻と過ぎて行く。
徳川は、ずっと時計ばかりを見ていた。
 

10分が過ぎた。
まだ、呼ばれない・・・・。

 

 

25分が過ぎ、やっと名前を呼ばれた。
「あと一時間か・・・・、やっぱり無理か・・・・。」
徳川は、落胆して、そうつぶやいた。
 
 
徳川は、診察室に向かった。
そして、中へ入った・・・・・。
 
 
 

が、次の瞬間、徳川は向きを変え、病院出口へ向かい走り出した!
そして、外へ出ると、タクシーに飛び乗り、運転手に告げた。

「第2ターミナルへ行って下さい。」
 
 
徳川は、タクシーの中で、下を向き、息を切らしていた。

「はあはあ・・・・。」

2ターミナルへ着くまでの間、徳川は、ずっと下を向いていた・・・。

 

タクシーは、第2ターミナルに着くと、ドアが開いた。
徳川は、運転手に千円札を渡したが、おつりを受け取らないで、そのまま走り始めた。
そして、ターミナル内のエスカレーターに乗り、3階へ上がった。
 
3階に着くと、また走り始めた。
 
チェックイン・カウンターが、遠くに見えて来た。
「ああ・・・、もうすぐだ・・・・・。良かった・・・・。間に合った・・・・。」
徳川は、そうつぶやくと、走るのを止めた。
ゼイゼイと肩で息をしながら、ゆっくりと歩き始めた。

 

沢山の人。

その中に、一番記憶のある姿が、かすかに目に入った。

「あ・・・・、あれは・・・、もしかしたら、紀香さん・・・・・・・。」

見覚えのある洋服を着ていた。

 

徳川の歩調が、速くなった。

 

 

 



               


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