「はい!今すぐに行きます!」
キャサリンは、電話を切った。
 
「トム!今、病院から電話で、大至急来てくれ、って!」
キャサリンが、トムに向かって、大きな声で言った。
トムは、キャサリンの電話の声の様子から、それは察していた。
キャサリンが電話を切ったと同時に、キャサリンの腕をとり、車まで走っていた。
 
 
トムとキャサリンは車に急いで入った。
トムがキーを差込み、エンジンを回そうとした・・・、が、手が悴んでいて、なかなか回せない・・・。
「ちくしょう!」
トムが両手を使ってキーを回した。

「ヴゥォォ〜ン!!!」

やっとエンジンが回った。

 

 
ローマン・ビーチ・パークを背にして、物凄い速さで発進した。
そして、さっき来たばかりの海岸線を横目に観ながら、セカンド・アベニュー通りに入り、行きに来た時と同じの、ルート99を爆走した。
時速120マイル(193.2km)!!!
BMWのフロントガラスから観える景色は、確認出来ない位の速さで流れて行く。
 
と、その時、トムはアクセルをゆるめて、急に減速した。
遠くの方で、赤いストップランプが無数に見える。

「ちくしょう!渋滞か!!!」
トムは、ハンドルを両手で強く叩きながら怒鳴った。
キャサリンは、腕時計を見ている。
そして、言った。
「時間がないわ・・・。どうしよう・・・。」
 
5分程して、その渋滞の最後尾に着いた。
キャサリンは黙って、まだ腕時計を見ている。
「キャサリン、全然動きそうにないよ。どうしよう・・・。」
トムが、お手上げだという様なしぐさをしながら言った。
キャサリンは、まだ黙って腕時計を見ていたが、いきなりシートベルトを外すと、大きな声で言った。
「私、ここから走るわ!いつもジョギングで、こんな距離くらい走っているんですもの!」
と言って、続けた。
「トム、それじゃ、先に行っているわ! 後でゆっくり、もし時間あったら病院に来てね。」
そう言うと、車のドアを開け、閉めて、いきなり走り出した。
 

トムが窓を開けて言った。
「キャサリン・・・、気をつけて行きなよ!」
 

トムは、そう言って再び窓を閉めたが、遠ざかるキャサリンの後ろ姿を見ながら、罵声を飛ばした。
「ちくしょう・・・。キャサリンたら、いつもこうだ! せっかくのデートなのに、台無しだぜ!」
 
 
 
 

キャサリンは、寒空の中、息を切らしながら走っていた。
いつもならジョギング用のシューズを履いて走るのだが、今日はデート・・・、ヒールの高いブーツを履いていた。
「やっぱり走りにくいわ・・・。足が痛い・・・・。」
実際、キャサリンの足首には相当の負担が掛かり、アキレス腱を酷使した。
「ああ、痛い・・・。痛い・・・・。」
キャサリンは何度もしゃがんで、足首を擦った。
 
走り続けて、もう1時間を過ぎた。
やっと、見覚えのある風景が見えて来た。
「はあはあ・・・、ああ・・・、もう・・すぐだわ・・・。」

キャサリンは、息を切らしながら小さく呟いた。
 
 
 
キャサリンがマーカス・ホリー病院に着くと、沢山の人でごった返していた。
キャサリンは、人を掻き分けて、とにかく病院内に駆け込んだ。
そして、外科ナースステーションに行くと、そこでも、沢山の看護師達が集まっていた。
「いったい、何があったんですか!」
キャサリンは、一人の看護師に声を掛けた。
「ああ、キャサリン・・・。さっきね、ピュジェット湾の近くの海岸で、二人の男女が倒れていて、救急車で運ばれたのよ。」
その看護師は、続けた。
「でね、噂だと、その二人はとっても変った服装をしていたそうよ。」
「変った服装・・? えっ、それで、その患者は、何処の病室に入ったの?」
キャサリンが聞いた。
「今は、集中治療室よ・・・。凄い怪我をしていて、もしかしたら危ないかも知れないってドクターが言っていたわよ。」
そう静かな声で看護師は言うと、ナースステーションから出て行った。
 
その後、ナースステーションに、電話があった。
「キャサリンは居るか? もし居たら、大至急、集中治療室へ来てくれ。」
電話の声の主は、シアトルの病院内でも有名な腕利きの外科医、ロバート・オットー博士だった。
キャサリンは緊張気味の声で言った。
「はい・・・、ただいま参ります。」
 
 
キャサリンは、音を立てないように、小走りに走った。
そして、集中治療室に入った。
 
集中治療室は、二部屋あった。
それぞれの、A治療室、B治療室に、二人の患者が入っていた。
男性の患者はA治療室に、女性の患者はB治療室に入っていた。
 

二人とも、意識不明の重体。

そして、その二人とも日本人だった。
 
 

               





 

 

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