「あっ、やっと起きたのねっ!」
徳川が振り向くと、そこにはある女性が立っていた。

「徳川くん・・・。」

その女性は自分の名を呼ぶと、いきなり泣き出した。
自分はベッドに寝ている。
周りを見ると、そこは病院だった・・・。
 

「もう、会えないと思った・・・・。」

その女性が、泣きながら言った。
そして、続けた。
「私ね、もう、会わないつもりでいた・・・。成田にも来ないつもりでいた・・・。でも、来ちゃったの・・・・。」
 

徳川は何かを言おうとしたが、声が出ない・・・。

一生懸命声を出そうとしたが、どうしても声が出ない・・・。
 
 
 
 
「ガチャ・・・。」
ドアを開けて、キャサリンが病室に入って来た。
徳川は、その音で目が覚めた。
目が覚めて、辺りを見渡した。
「夢で見た病院とは違う・・・、でも、ここも病院か・・・。」
 

しばらくして、やっと現実を理解した。
 

「トクガワさん、起こしてしまってごめんなさいね。検温の時間ですよ。」
キャサリンは、英語と日本語を混ぜながら言った。
「あ・・・、キャサリンさん・・・、検温、お願いします・・・。」

徳川は、キャサリンの顔を見ると、もう、その時には、完全に現実を理解していた。
 
 
「でも、なんで僕は違う病院の夢を観たのだろう・・・。そして、あの女性は、いったい誰なんだろう・・・・。」

徳川は、ずっと考えていた。
 
 
 
それから二日後の夜、徳川はまた夢を観た。
 
 

「成田発ニューヨーク行き便、本機は間もなく離陸致します・・・。」
「乗客の皆さま、シートベルトの着用をお願い致します・・・。」
 
 
「そんなに美味しいんだったら、こっちのも食べるかい?」
「もし良かったら、俺と一緒に呑まないかい? どうせ長旅なんだし・・・」
 
 
「ガクン!」

「大丈夫か?」

「ガガガガ・・・!」

「あああ・・・!」

「もう、ダメだ!!!」
 
 
 
「あっ!」

徳川は、布団を払いのけ、飛び起きた!
 
窓の外を見ると、真っ暗だった。
「ああ・・・、夢か・・・。」
徳川は、汗をびっしょりかいていた。
 
徳川は、そのまま寝付けずに、いろいろ考えていた。

そして、朝を迎えた。
 
 
 
「おはよう!」
キャサリンが、いつものように元気に部屋に入って来た。
徳川が眠そうな目をしてキャサリンの方を見ると、その徳川の顔色を見てキャサリンが心配そうな顔をして言った。
「トクガワさん、今日はちゃんと眠れましたか?」
キャサリンは、その徳川の表情を見て、すぐに察した。
「いや・・・、じつは、夢を観て、起きてしまって・・・、それから眠れなくて・・・。」
そう徳川が言うと、キャサリンが続けて言った。
「夢って、どんな夢を観たんですか?」
徳川は、少しの間考えていた。
「えーと・・・。」
 
そして、上目使いでキャサリンを見ると、小声で言った。
 
 
「ナリタって、何処ですか?
キャサリンは、不思議そうな顔をした。
「え?ナリタですか・・・?」
「はい、僕は、ナリタという所から来たのかも知れません・・・。」
 
「ちょっと待ってね!」
キャサリンはそう言うと、足早に病室を出て行った。
 
徳川は、キャサリンが出て行った後も、夢の事を考えていた。
20
分程して、キャサリンは徳川の病室に戻って来たが、一人の女性を連れて来た。
「この人は、日本の人よ。ナリタの事知っていると言っています。どうぞ話して下さい。」
キャサリンはそう言うと、その日本人を紹介した。

「徳川さん・・・、初めまして。私は、外科第二病棟の看護師をしています山本和美と申します。」
その女性は、徳川に近づき、笑顔で言った。
「あ、どうも・・・、初めまして、徳川と言います。」
徳川は、少々緊張して言った。
「徳川さん、ナリタという所からいらっしゃったのですか?」
「はい・・・、まだ良くは分からないのですが、何となく、そんな気がして・・・・。」
「ナリタとは、千葉県の成田ではないですか?」
「・・・・。」
徳川は少しの間考えていたが、小声で言った。

「すみません・・・、良く分からないです。」
 
和美は、徳川に日本の事をいろいろ話した。
次の日も、そして、また次の日も、時間のある時、和美は徳川の病室を訪れた。
徳川は、次第にいろいろな事を思い出していた。
 
 

数日後の朝、和美の話の中で、徳川は、ある一つの疑問を抱いた。
徳川は、和美に向かって言った。
「すみません。今日の新聞を見せて頂けますか?」
 
和美はすぐに病室を出て、ナースセンターから新聞を持って来た。
徳川は、その新聞を手に取ると、きょろきょろと見回していたが・・・。
 

「ああああ・・・・!」

 
徳川は、大声を出し絶句した。
 
 
 

               


 
 

 
 
 



 

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