「オットー先生・・・、僕が暮らしていた1999年には、携帯電話というものがあります。それから・・・」
徳川がそこまで言うと、オットー博士はすぐに質問した。
「携帯電話?それは、どんな形をしているのかね・・?」
「縦15センチくらいの大きさの電話です。外にいても電話が出来るんです。」
オットー博士は少々含み笑いをしながら、頷いた。
「それは便利なものだね。あとは?」
「パソコン・・・、そう、パーソナル・コンピュータと言って、タイプライターや、計算機や、メールをしたり、いろいろな事が出来る機械があります。」
「メールって、郵便の事だよね?それを、機械でどうやってするんだい?」
「電話回線を使って、瞬時に手紙を送れるんです。」
「えっ、だって、電話だろう?電話にどうやって手紙の文字を書くんだい?」
先程まで徳川の話を聞き流していたオットー博士だったが、電話回線を使って手紙を送るという話について興味を抱いた。
「パーソナル・コンピュータで文字を入力して、それから電話回線を通して、相手に電子の手紙を送るんですよ。えーと、説明するのがとても難しいのですが・・・」
徳川は、頭を抱える仕草をしながら言った。
オットー博士も徳川の顔を見て、同じように頭を抱える仕草をした。
 
「徳川くん、君はとても面白いね!」
オットー博士は、両手を広げながら言った。
「あと、どんな不思議なものがあるんだい?」
「そう・・・、その電子メールは、携帯電話でも最近出来るようになったんです。」
徳川は、話を続けた。
「ですから・・・、外からでも、手紙を送る事が出来るんですよ。」
オットー博士は、眉をしかめた。
「うーん、ちょっと分からなくなって来たな・・・。そんな事が出来るなんて、まったく想像つかない・・・」
「はい、僕も、携帯電話で電子メールが出来るようになるなんて、初めは信じられませんでした。でも、僕の時代では、今は普通になっています。」
オットー博士は、徳川の顔を見据えた。
「あとは・・・、どんなものがあるんだい?」
「あとは・・、えーと、今の時代ではないものと言えば・・・」
徳川は、眉をしかめながら続けた。
「そうですね・・・、テレビ、ファックス、コピー機、ビデオ、テレビゲーム、カラオケ・・・、いや、あまりにも沢山あり過ぎます。」
 
オットー博士は徳川の話に耳を傾け、ひとつひとつ聞き、質問して行った。
そして、翌日も、翌々日も、オットー博士は徳川に接し、いろいろな話を聞いた。



徳川の話を真剣に受け入れたオットー博士は、一週間後、親友の電子工学技師や機械技術士、そして物理学者など数人を呼んで会議を開いた。
オットー博士は、昨日徳川から聞いた話をメモし、それを複写して各人に渡し、説明した。
 
「去年暮れ、シアトルの海岸で発見され、重体で意識不明だったある日本人が奇跡的に助かり、意識を取り戻し、今、私のところで入院中ですが、その患者は私が接するところ、とても興味深い事を言っております。その内容を皆さんに見て頂き、それぞれの専門分野の視点からご意見を伺いたいと思います。」
 
各氏は、オットー博士の文書に目を通した。
数分の沈黙が流れる。



各氏は、ガヤガヤと声を発していたが、まず、電子工学技師のジョン・マーシャルが発言した。
「私の見解を申し上げます。まずコンピュータについてですが、1945年にノイセン社が真空管コンピュータの理論設計序説を打ち立て、4年後の1949年には最初のノイセン型コンピュータが試作されています。去年に、シントンランド社やICM社も大型の商業計算機を開発していますし、この日本人の言っている事は、おそらく、その知識からなる発想ではないかと考えられます。そして、それに基づき様々な妄想を描き、そのような事を言っているのだと思います。」
マーシャル技師は、否定的だった。
 
続いて、機械技術士のケリー・ブラウンが答えた。
「エンジニアとしての立場から申し上げますと・・・。ここに書かれてある事は、殆どが想像出来るものではありません。ただ、『人間が想像するものは、将来殆どが現実となっている。』という話も聞きますし・・・、いや、実際、潜水艦やロケットなどない時代に、それらが登場するSF小説があったりしていますので、これは、もしかしたら、将来的にとても興味深い事かも知れませんね。」
 
電子工学技師ジョン・マーシャルと、機械技術士ケリー・ブラウンが発言した後、数秒の後、物理学者のフランケン・アンシュタインが静かに言った。
「テレビ、ファックス、コピー機、ビデオ、テレビゲーム、カラオケ・・・、そしてパソコン。これらは、すべて将来的に可能な事だと私は思います。例えば、一般市民がテレビという映像を観る事は、近い将来現実のものとなる事でしょう。」
 
「アンシュタインさん・・・、やはり、この日本人の言っている事は、将来あり得る事ですか・・・?」
オットー博士は、この著名な物理学者も自分の考えに賛同しているのだと思い、心嬉しく思った。
 
「はっきりとは分からないが、可能性は高いと私は思います。」
アンシュタインは、そう言ったが、すぐにオットー博士に近寄り、声を低くして言い直した。
「いや・・・、おそらく現実となるでしょう・・・。」
 
 
 
 
会議は、2時間程続いた後、終了した。
オットー博士は、各氏に挨拶をしていたが、最後に小声で言った。
「今日の話は極秘でお願いしますね。FBLCTAが嗅ぎつけて来たら厄介ですから・・・。」

「はい、分かりました。」
各氏は、一斉に言った。
 
その言葉に、オットー博士は少し安心したが・・・
じつは、会議中に、オットー博士は一瞬不安が過ぎったのだった。
徳川が未来から来たと言う事は、実際、半信半疑だったが、各氏の話を聞くにつれて、次第に真実味が増して来て、「これは、大事になるのではないか・・・」と、不安が過ぎった。
その「大事」を、自ら公表してしまい、この後、大変な事になってしまわないか・・・と、会議中ずっと考えていた。
「いや、みんな信用出来る親友ばかりなのだ。何も心配する必要はない・・・。」
オットー博士は、小さくそう呟いた。
 
 

病院を出た時、電子工学技師マーシャルは、隣にいた機械技術士に向かい、こう言った。
「こんな事、あり得ると思うかい? 未来から来た? そんなの信じられる事かよ!」
苛立った様子でそう言ったが、マーシャル技師は、しばらくして急に顔色を変えた。
 

「待てよ・・・、これは、もしかしたら週刊誌が喜びそうなネタかも知れないな・・・。」
 
 

               

 

 

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