電子工学技師ジョン・マーシャルは、その夜、早速、ロサンゼルスにある有名雑誌社のカルチャー社に電話した。
「プルルル・・・、プルルル・・・・」
 
カチャ!
 
「はい、こちらカルチャー社です。」
受付係が、電話に出た。
「あ、どうも。私は電子工学技師のマーシャルと申します。」
マーシャルは、少々緊張しながら言った。
「どんな、ご用件でしょうか?」
「あ、じつは・・・、と、とても興味深いネタがあるんですよ・・・。もし宜しかったら、ご提供したいと思っていまして・・・、そ、それで、あの・・・、社長さんはいらっしゃいますかね・・・」
「社長は、只今あいにく接客中でして・・・。あと30分程で終わると思いますが。」
「あ・・、そうですか。それでは、また後でお電話します。」
「はい、宜しくお願いします。」
マーシャルは、電話を切った。
 
マーシャルは、その後、何度も時計を見た。
「まだ、10分しか経ってないのか・・・」
そう呟くと、部屋の壁を小さく蹴った。
マーシャルは、苛立っていた。
 
時計を何度も見ては落ち着きのないマーシャルだったが、先程の電話から30分が過ぎたのを確認すると、すぐに、また電話をかけた。
 
「プルルル・・・、プルルル・・・・、プルルル・・・・」
 
「はい、こちらカルチャー社です。」
さっきと同じ受付係が電話に出た。
「あ、あの、さっき電話したマーシャルですが・・・、あの・・、社長さんは・・・」
マーシャルは、早い口調で言った。
「はい、先程の方ですね。少々お待ち下さいませ。」
その言葉に、マーシャルは、深くため息をついた。
 
カルチャー社の社長は、しばらくして電話に出た。
「もしもし・・・」
その社長の声は、低く、落ち着いていた。
社長の声を聴き、マーシャルは一瞬動揺したが、気持ちを取り直して言った。
「あ、あの、初めまして・・・、私は電子工学技師のジョン・マーシャルと申します。」
間を入れず、社長は言った。
「こちらこそ、初めまして・・・。私は、ギルド・フォスターです。ところで、用件は?」
 
マーシャルは、唾を飲んだ・・・。
「あの、じつは・・・、ちょっと面白いネタを持っていまして・・・。あなたの雑誌社で取り上げて頂けたらと思いましてね・・・」
フォスター社長は、また間を入れずに言った。
「どんなネタですか?」
そう言うと、フォスターは、すぐに続けて言った。
「具体的に言って頂けると有難いのですが・・・」
マーシャルは、大きく息を吸い、そして一気に言った。
「じつは、先日シアトルの海岸で重体の日本人が発見され、現在、マーカス・ホリー病院に入院しているのですが、その日本人が不思議な事を言っているのです・・・。あの、その日本人は、未来から来たと言っていて・・・、具体的に、未来のいろいろな機械や乗り物の話をしているそうなんです。」
マーシャルは、フォスターに対し、そう言いながら、いつの間にか興奮して話していた。
「ほほう・・・、それは面白そうなネタだね。」
このような問い合わせを、いつも相手にしているフォスターは、落ち着き払ってそう言った。
「はい、明日にでも、カルチャー社にお伺いしますので、お話を聞いて頂けませんか?決して、損をするネタじゃないと思いますよ。」
「それは楽しみですな・・。それでは、明日、お待ちしていますよ。」
そこまで言って、フォスターは付け加えた。
「あ、明日は、午前中に会議があるので、午後からでしたら、いつでも大丈夫ですよ。」
「はい、分かりました。明日、午後にお伺いします。」
「それでは、明日。」
二人は、電話を切った。
 
 
「また、いつもの、くだらないネタだろうな・・・」
フォスターは、そう小声で呟き、仕事に移った。
 
 
次の日の午後1時、マーシャルはシアトル空港から旅客機でロサンゼルス空港へ行き、空港からタクシーで、ダウンタウンにあるカルチャー社を訪れた。
大きな高層ビルが建ち並ぶ中に、雑誌社「カルチャー」があった。
 
マーシャルは、ビルの上を見上げた。
「やっと、辿り着いたな・・・」
 
エレベーターに乗った。
カルチャー社のある、49階のボタンを押した。
エレベーターの中は、人でいっぱいだった。
満員の中、沈黙が続いた。
エレベーターに乗っている人は、皆、エレベーターが上昇する階を示す数字に目をやっている。
皆、一点を見つめている。
まるで、ペンギンのようだ・・・
 
このビル内に勤務している人達が、各階で次々と降りて行く。
40階程に上がった頃には、殆ど人が居なくなっていた。
 
49階に着き、マーシャルは急ぎ足でカルチャー社を捜した。
大きな表札のあるカルチャー社は、すぐに見つかった。
 

「ここか・・・」
 

マーシャルは、ドアを開けた。
 

               

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