「おい、お前ら! 何しに銀行に来てるんだ!」
シー・グールが二人の男に向かって怒鳴った。

二人はハッとして、振り向いた。
 

「あっ!」


二人は一瞬吃驚したような顔をしたが、すぐに笑いながら一人の方の男が言った。
「あ、ああ・・、金を下ろしに来たんだ・・・。金が、底を着いてしまってさ。」
すると、すぐさま、もう一人の男が言った。
「そう、そうなんだよ。この間、俺がちょっとカジノで儲けたんだけどな、こいつが金無いって言うから、貸してやろうと思ってさ、金を下ろしに来たんだよ。」
二人は、目を合わせながら言った。
 
「それは、本当か? 今朝、この若い奴の小切手が無くなっていたんだぜ。」
シー・グールは、そこまで言うと徳川の方を向き、指をさし、また二人の男に向き直って続けた。
「俺の船に泊まったのを知っているのは、お前らだけだぜ。 そのお前らが、何でこんな朝早く銀行に来ているんだ。」
シー・グールが、強い口調で言った。
 
「本当だとも、ボス信じてくれよ。」
一人がそう言うと、もう一人の男も付け加えて言った。
「だってよ、俺達がボスに嘘つく訳ないじゃないかよ・・・。こんなに世話になってるボスに・・・」
男がそこまで言うと、

その時、銀行員が窓越しに言った。

「次のお客様。」
 

「あ・・」


その銀行員の呼び出しを聞き、一人の男が銀行窓口へ駆け寄った。
それを見て、シー・グールも慌てて窓口へ走った。
もう一人の男も、続いた。
 

一人の男が窓口に着くと同時に、シー・グールも窓口に着いた。
いや、シー・グールの足の方が、間一秒早かった。

「銀行員さん、その書類には、何て言う名前のサインが書いてありますかね。」
シー・グールが銀行員に向かい、そう言ったが、すぐに続けた。
「あ、若いの! お前の持っていた小切手には、いったい誰のサインが書かれてあったんだい!」
 
徳川は、言った。
「ロバート・オットー博士です。」
 
銀行員は、一瞬、シー・グールと徳川と、そして二人の男の顔を見比べていたが、小声で言った。
「ここには、確かに、ロバート・オットーという人のサインが書かれてありますが・・・」
 
「おい!お前ら! 何て情けない事をしやがったんだ! 俺の顔に泥を塗りやがって!」
シー・グールは、そう怒鳴ると、二人に近寄り、次々に殴り倒した!
 

「バーーン!」
 

「あーーー!」


二人は、倒れたまま、しばらく起き上がれなかった。
 

シー・グールは、二人をずっと睨みつけ、更に大きな声で叱咤した。
「お前らは、もう俺の船に乗る資格はねぇ! 今すぐクビだ! とっとと出て行きやがれっ!」
 

二人は立ち上がり、服の汚れを手で払うと、小さな声で言った。
「くそう・・・、もう少しだったのに・・・」
そして、唾を吐き捨てると、銀行を出て行った。

 
 
 

「おい、若いの・・・、ここにお前のサインが必要だ。」
シー・グールは、そう言い、徳川に手招きをした。
銀行員が、書類を手渡すと、徳川は頷き、そこにサインをした。
そして、徳川に現金が渡された。
 

徳川は、それを見て吃驚した。
ロバート・オットーから受け取った現金は、5.000ドルだった。
 
 

 

シー・グールと徳川は、外へ出た。
 
「そうだ、お前、まだメシ食ってねぇよな。」
シー・グールが、微笑みながら言った。
「はい。お腹空きましたね・・・。もし良かったら、ご一緒に食事しませんか?」
「ああ、そうだな。俺も腹減ったよ。何か食べに行くか。」
二人は、ムスタングに乗った。
 

シー・グールは、運転しながら、徳川に言った。
「さっきは、悪い事をしたな・・・」
「いや、とんでもないです・・・。助けて頂いて、こちらこそ、ありがとうございました。」
「いや・・、あいつらがした事は俺の責任だよ。 俺の管理不足だったんだよな・・・」
シー・グールは、続けた。
「とにかく、とても迷惑を掛けてしまったよ。」
「いや、昨日船に泊まらせて頂いたじゃないですか・・・。お礼を言いたいのは、僕の方ですよ・・・」
徳川がそう言うと、シー・グールはいきなり大きな声で笑い出した。
「わっはっは! ま、とにかく金は戻ったんだし、めでたしめでたしだな。 さあ、旨いもんを食べに行こうぜっ! なあ、俺の友達がやってる店へ行こう。 味はシアトル一だぜ!」

そう言うと、ムスタングのアクセルを深く踏み込み、スピードを上げた。
 

 
 
シアトル中心部に、その店はあった。
歩道に高く突き出たように大きな看板があり、そこには「THE KING FISHER(キング・フィッシャー)」と書かれてあった。

 

シー・グールと徳川は、そのレストランに入った。

 

 

               




 

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