その頃、オットー博士は、六人の男達に囲まれていた。
 
「若い日本人の男は、今何処にいるんですか!」
「いや、それが分からないんだ。」
「そんな事ないでしょう? 昨日まで、確かに入院していたんでしょう?」
「いや・・・、昨日の朝、病室に来た時、既に居なかったんだ。 記憶喪失になっていたから、もしかしたら・・・」
 

オットー博士はそこまで言うと、沈黙した。
 

「えっ、もしかしたら・・・って? 何処か、心当たりのある場所を知っているんですか!」
一人の男が、早口で言った。
 
「い、いえ・・・、何でもないんだ。」
オットー博士はそう言い、一瞬、眉をひそめたが、その男に向き直り、話を続けた。
 
「いや・・・、まあ・・・、その日本人は、記憶喪失になっていたからね・・・、さ迷い歩きながら、きっと、自分の住んでいた家を探しに行くと思うんだ・・・。そう、そう言えば、大阪に家があると言っていたから・・・・、もしかしたら、今頃、シアトル空港へ向かっているのかも知れないな。」
 
オットー博士は、話を誤魔化した。
 
一人の男が、言った。
「日本の、大阪ですか? 日本に行かれたら、我々は、手も足も出ないな・・・。オットー博士、その他に、その日本人が行きそうな場所は、分からないですかね? 何処か、心当たりのある場所とかは?」
 
「いや、本当に、全く分からないね・・・」
オットー博士は、首を横に大きく振るジェスチャーをしながら言った。
 
 
 
 
オットー博士と6人の男達は、その後30分程言い合っていたが、最後に、その中のリーダーらしき男が言った。
「ま、しょうがない。とにかく、ここでノロノロしている場合じゃない。まだ、そう遠くへは行っていないはずだ。日本人が行きそうな場所を探す事にしようぜ。」
 
 
6人の男達は、病院を出て行った。
 

 

オットー博士は、男達が出て行った後、ちらっと腕時計に目をやり、吐き捨てるように言った。

「まったく・・・、昨日最後に、電話しろと言ったのに、徳川の奴、いったい今、何処で何をやっているんだ!」
 
 

 

 

6人の男達は、外へ出て、タクシーを呼んだ。
2台の車に分乗して、それぞれ別の方向へ車を走らせた。
1台は海岸へ、そして、もう1台は、シアトル中心部へ向かった。
 

海岸へ向かう車の中に、リーダーが居た。
一人の男が、そのリーダーに向かって言った。
「どうして、海岸へ向かうんですか? シアトル空港へは行かないんですか?」
 
リーダーが、答えた。
「さっき、オットーが言っていた話・・・、お前、本気にするのか? あの話は、その日本人をかばっているに違いない。記憶喪失をした人間っていうのはな、少ない自分の記憶に辿って、その方向へ向かうものだ。と、以前話で聞いた事があるんだ・・・。俺の勘に狂いがなければ、海岸に何かヒントがあるはずだ。」
 
 

海岸へ向かった車は、間もなく、目的地に着いた。

だが、シアトル中心部へ向かった車は、途中で、渋滞に巻き込まれ、動けないでいた。
 
 
 

海岸に着き、車を降りた3人の男は、まず、その付近で聞き込みを行った。

そして、聞き込みをしている内に、一つの事が分かった。
 
地元の人達の間で、噂になっていた事。

それは・・・

事故が起きた時、見つかった人は、皆、救命胴衣を着用していたという事。

そして、彼らは、とても変った洋服を着ていて、救命胴衣も、変った繊維の物だったと・・・

 

「ただの、人の噂と言ってしまえば、そうかも知れないが、これは、もしかしたら、マーシャル氏が言っていた『未来から来たという話』に一致する事かも知れないな・・・」

リーダーは、そう小さく呟いた。
 
 

 

その後、海岸から港へと場所が移された。

時間は大分経ち、その頃には、もう空は暗くなっていた。

 
3人の男達は、夜になっても聞き込みを続けていた。

 
 
 
 
 
すると、昨夜、一人の若い日本人を見たという男が現れた。

 
 
 
 
 
(つづく)
 

               

 
 

 

 

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