マーシャルがドアを開け、中へ入ると、灰色の沢山のデスクが並び、沢山の社員が忙しそうに仕事をしていた。
マーシャルは、まず入口近くにいた女性社員に尋ねた。
「あの、ギルド・フォスター社長に会いに来たのですが・・・」
女性社員は、指をさしながらぶっきらぼうに言った。
「ああ、社長は、こっちの奥の右側の社長室にいるわ。」
マーシャルは、その女性社員の応対の悪さに少々腹を立て眉をしかめたが、堪えて笑顔で言った。
「どうも、ありがとう・・・」
女性社員はマーシャルの顔も見ずに、
「こちらですよ。」
そう言って、つかつかと歩き出した。
マーシャルは、また眉をしかめ、その女性社員に着いて行った。
 
女性社員は、社長室のドアをノックした。
すると、中から別の女性社員が出て来た。
どうやら、秘書のようだ。
その秘書はマーシャルの顔を見ると、すぐに言った。
「マーシャルさんですか?」
「はい、そうです。」
「社長からお聞きしています。どうぞ中へ・・・」
秘書は、言葉が丁寧だった。
マーシャルは、心成しか安心した。

 
ギルド・フォスター社長は、奥の大きなデスクの前に立ち、窓の外を眺めていたが、すぐにこちらを振り向いた。
マーシャルは、フォスター社長の顔を見るや、少々顔を強張らせて言った。
「昨日、お電話したジョン・マーシャルです。初めまして・・・」
「ああ、どうも。遠くから大変でしたね。どうぞ、そちらへお座りになって下さい。」
フォスター社長は、低い声で言った。
 
二人は、5分ほど世間話をしていたが、マーシャルが本題を切り出した。
「ところで・・・、昨日お話した件ですが・・・」
マーシャルは、オットー博士との会議の内容を詳しく話した。
途中まで、椅子の奥深く座っていたフォスターだったが、様々な見知らぬ機械の名前が出て来ると、急に身を乗り出して、マーシャルの話に興味を示した。
 
「それで、その日本人というのは、その病院のどの病室にいるんですか? そして、名前は?」
「いや・・・、名前も病室も分からないのですが・・・」
マーシャルは、肩をすぼめた。
フォスターは、しばらく考えていたが、
「まあ、日本人なんて、そう多くはいないだろう。とにかく、現場に行けば何か掴めるはずだ。」
そう言いながら、声を低くして続けた。
「その日本人は、若い男と言ったな・・・?」
「はい、そのような事を言っていたような気がします。」
「よし、分かった。」
 
 

その後、二人は1時間ほど話したが、結局、フォスターはマーシャルの話を受け入れ、カルチャー社の有名週刊誌にスクープとして取り上げる事になった。
「よし、それでは早速、シアトルのマーカス・ホリー病院に取材班を派遣しよう。」
フォスターは、そう言い、すぐに社員数名を集めた。
 
カルチャー社を出たマーシャルは、興奮していた。
「俺にも、ようやく運が廻って来たかも知れないな!」
そう大きな声で言ったかと思ったら、すぐに小声になり言った。
「よし、金が入ったらロールス・ロイスでも買うか・・・。いや、家を買えるかも知れないな・・・」
マーシャルは、ずっと独り言を言っていた。
 
 
 
翌日、早速、6人の取材班がシアトルへ向かった。
マーカス・ホリー病院に着くと、取材班はまず病院受付に行き、尋ねた。
「去年の暮れに、海岸で発見された日本人の病室は何処ですか?」
すると、受付の女性は、眉をしかめながら言った。
「あの・・・、その方のお名前は?」
「あの、名前は分からないのですが・・・」
取材班の一人がそこまで言うと、別の一人がその言葉を遮るかのように慌てた口調で言った。
「いや、あの・・・、日本人で・・・、若い男性なんですがね・・・」
「あの、申し訳ありませんが、当病院では、患者さんのお名前が分からなければ、病室をお教えする事は出来ない規則になっておりまして・・・」
「いや・・・、そこを、何とか出来ませんかね。」
「それは、規則ですので。申し訳ありませんが・・・」
しばらく言い合っていたが、取材班の一人が言った。
「じゃ、分かりました。」

取材班の6人は、外へ出て行った。
 
 
「くそぅ・・・、なかなか厳しいものだな!」
一人が言うと、他の一人がパチンと指を鳴らしながら言った。
「本当だぜ、まったく! このまま引き下がれねぇよな・・・、ボスに何て言い訳すれば良いんだ!」
互いにブツブツと言っていたが、取材班のリーダーらしき男がポツリと言った。
 
「よし、それじゃ、手分けして探すしかないだろう・・・。」
 
各人は、二人づつ三組に分かれた。
そして、早歩きで、また病棟に向かって行った。
 
 

 
その頃、先程の受付から、徳川が入院している病棟へ連絡が入っていた。
病棟のナースセンターから、更に、オットー博士に連絡が入った。
「今、受付から連絡がありまして、徳川さんの事を探しているという人達が、先程、病院に来たそうですが・・・」
ナースセンターの看護師がそこまで言うと、オットー博士は捲くし立てるように早口で言った。
「その人達は、徳川くんの名前を告げているのかね?」
「いや、名前を知らないそうなんですが・・・、ただ、どうしても会いたいとしきりに言っていたそうで・・・」

「それは、もしかしたら大変な事になったのかも知れないな!」
オットー博士は強い口調でそう言い、急いで電話を切った。
 
オットー博士は電話を切ると、医師控え室へ向かった。
廊下には、沢山の患者や看護師や医師たちが歩いている。
肩で掻き分けながら、途中、小走りになった。
医師控え室に着くと、自分のデスクの引き出しから、小切手を取り出し、サインした。
手が震えた・・・。
そして、また廊下に出て、徳川の病室へ向かった。
オットー博士は、思わず走り出した。
走りながら、何度も自分に叱咤した。
「ちくしょう! あの会議を行ったのは間違いだった・・・。俺は、何て事をしてしまったんだ!」
 

 
 
オットー博士は徳川の病室に辿り着くと、怒鳴るような大きな声で言った。
「徳川くん、これを持って、今すぐに病院を出てくれ!」
そう言い、小切手を渡した。
 
その、オットー博士の激しい形相に、徳川はたじろいだ。
「先生、一体何が起こったのですか・・・」
 

 

だが、オットー博士は徳川の言葉を遮り、更に大きな声で怒鳴った。
「説明は後だ! 明日にでも病院へ電話してくれ! とにかく、急いで!」
 
 

 

               

 

 

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