シーフード・レストラン「THE KING FISHER(キング・フィッシャー)」の中は、とても広く明るかった。
天井が高く、いくつものファンの付いた照明が回っていた。
店内の壁にはオーク材が使われ、所々に、船のイカリや、木製の船の操舵ハンドルがあり、そして、店内中央には大きなマストの付いたヨットが飾られてあった。
 

まだ昼前だと言うのに、お客さんでいっぱいだった。
時おり、食器にフォークやナイフが当たる音が店内に響き渡る。
 
店員が、二人を窓際のテーブルに案内した。
 

「なあ、なかなか良い店だろ?」
シー・グールは、席に着くと、徳川に向かって笑顔で言った。
「はい、こんなに広くて綺麗なレストランに、僕は生まれて初めて入りましたよ。」
徳川は、きょろきょろと店内を見渡しながら言った。
 
店員が、メニューをテーブルの上に置き、他のテーブルに行った。
 
「さあ、何でも好きなものをたらふく食べてくれよな! お前、お腹空いてんだろ?」
シー・グールがそう言うと、徳川は肩をすぼめながら言った。
「はい・・・、じつは、昨日の朝から何も食べていないんです・・・」
「えっ、お前、何処から来たんだ?」
シー・グールは、そこまで言ったが、
「あ・・、ごめんごめん・・・、話は後だ、とにかく早く料理を選んで頼もう。」
と、手招きをしながら言った。
 
徳川は、メニューをパラパラと捲って捜していたが、やっと決まったようだ。
それを見て、シー・グールは徳川に微笑みを浮かべウインクすると、店員に向かって指を「パチン!」と鳴らし、合図を送った。
店員は、すぐにテーブルに来た。
「はい、如何いたしましょうか?」
店員は、丁寧に言った。
 

徳川は、ホタテ貝と車海老のブロシェットと、ビーフ・ステーキ・オリジナル・ソース。シー・グールは、魚介類と野菜のバビエット、そしてムール貝とサーモンのホイル包み焼きをオーダーした。
 

オーダーし終わると、シー・グールが徳川に向かって切り出した。
「そうそう・・・、さっき話が途中だったけど、お前、一体何処から来たんだ?」
徳川は、少し顔をしかめた。
「あ、あの・・・、日本から来たのですが・・・、ただ・・・」
徳川がそこまで話すと、シー・グールは催促するように言った。
「ただ?」
「あ、はい・・・、ただ、『ナリタ』という所から飛行機で来た・・・、という事は思い出したのですが、あまり細かい事が分からないんです。」
「ナリタ・・・?日本に、そんな場所があるのか?」
「はい。飛行場があるのだと思います。」
徳川は、ここでは、未来から来たという事、そして、病院での一件があった事は話さなかった。
 
「ま、とにかく、日本から飛行機で飛んで来たって訳だな。」
シー・グールは、面倒臭くなった様子で、少々ぶっきらぼうに言った。
 

その時、後ろから、声を掛けられた。
「よう、シー・グール! 久しぶりだな!」
 

「おう!ジョニー! 今日は、珍しく日本人を連れて来たぜ。」
「今日は、何の風の吹き回しかい? それは、シー・グールに似合わないな。わっはっは・・・。お前のとりまきは皆柄の悪い奴らばかりだからな!」
オーナーのジョニー・ワーカーは、続けた。
「ま、ゆっくりしてってくれよ。」
ジョニー・ワーカーはそう言うと、キッチンの方へ歩いて行った。
 
 
間もなく、料理がテーブルに並んだ。
その量に、徳川は目を見張った。
徳川にとって、初めてアメリカのレストランで食べる料理の量は、吃驚するものだった。
「すごい!」
徳川は、思わず大声を出した。
シー・グールは、その徳川の顔を見て笑っていた。
 
 


食事が終わり、二人はコーヒーを飲んでいたが、その時、カウンター近くの方で、何やらざわめきが起きた。

「よう!いいぞ!」

「カモーン!」

お客は、一斉にその方向に目を向けた。
 
シー・グールは、微笑みながら、ゆっくりと見ていた。
徳川は、一体何が起きたのか、全然分からなかった。
 
前の方のお客さんが立ち上がっていたので、一瞬、何も見えなかったが、徳川は、その音で、ようやく解った。

ジャズ演奏が、始まったのだ。
 
 

テナーサックス、ピアノ、ベース、ドラムスという編成だった。
いきなり、アップ・テンポの曲が演奏された。
そのリズムに合わせて、お客は体を揺らした。
店内は、急に賑やかになった。
 
 

 

徳川は、その音のする方向を、じっと見つめていた。

 

               

 

 

 

 

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